人生の特等席 ☆☆☆
人生の特等席 ☆☆☆
前回の主演映画『グラントリノ』で、俳優人生に終止符を打ったと思っていた、クリント・イーストウッドが、再び俳優として戻って来た役は、野球選手のスカウトマン。監督業より俳優の方が性に合っているのか、それとも年齢相応の役柄だったから引き受けたのか、役柄同様言う事を聞かなくなった自身の体を、叱咤激励するかのように役に打ち込んでいる。一人娘が33歳の役なので、父親としては大分年を重ねてからの子供の様に見えてしまうのは御愛嬌か。幼い頃から父と一緒に地方球場を渡り歩いたミッキーは、弁護士にしておくのは勿体ないほど、周りの誰よりも野球に詳しかった。
定期的に父の様子を見に来るミッキーは、一緒に食事をしながらも、何時も心にわだかまりを持ち、年老いた父親が何かを打ち明けてくれるのを待っている。ミッキーが幼い頃に妻を亡くしたガス・ロベルは、幼い娘を親せきに預け放しで、会いに行く事も電話で話す事も避けていたのだ。ハイスクールの時も寄宿舎に入っていたミッキーは、父親は自分の事を嫌い、関わりを持ちたくないのだと思い込んでいるのだ。何とか自分に振り向いて欲しいミッキーは、弁護士になり事務所の共同経営者になり、昇進した姿を父に見せる事で、自分を認めさせたかったのだが。
ガスの親友であり上司のビートは、幼い頃から知るミッキーに父親の体の様子を見てきてほしいと頼む。ガスは親友ビートにも目が見え難くなっている事を隠していたのだ。仕事が山積みの事務所に休暇を出して、ミッキーは父のいる地方球場まで覘きに行くのだが、これといった人材が見つからず、モーテルに引き上げたガスとミッキーだが、ガスは一足早くミッキーを残し家に帰ってしまった。前の晩に言い争い、やっとの思いで、幼い頃の自分の事を聞き出したミッキーだったのだ。チェックアウトの時に聞こえてきたキャッチボールの音、それは幼い頃に培われた、ミットに沈むボールの純粋な音だったのだ。